はじめに
なぜ読もうと思ったか(動機)
私はもともと原価計算・管理会計の仕事をしており、数字を通じて事業の状態を理解したり、予算や予測を通して組織で共通の方向を向くことに携わってきました。製造業での経験が中心でしたが、もし管理会計の対象がクラウドであれば、より自分に合うのではないかと感じ、会計とITの掛け合わせが自分のキャリアで活きるのではと考えました。
書籍の情報
書籍情報 | 内容 |
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書籍名 | クラウドFinOps 第2版 |
著者名 | J.R. Storment、Mike Fuller 著、松沢 敏志、風間 勇志、新井 俊悟、福田 遥、門畑 顕博、小原 誠 訳 |
出版年 | 2025年03月 |
ISBN | 978-4-8144-0108-6 |
書籍ページ | https://www.oreilly.co.jp/books/9784814401086/ |
GitHub |
読んでみてどうだったか(総論的な感想)
FinOpsは単なるコスト最適化の話かと思っていましたが、実際には組織横断的な文化や仕組みづくりも含めた広範な概念であることが分かりました。マルチクラウドを前提としつつ、ベンダーニュートラルな視点も多く、今後のキャリアのヒントにもなりました。
印象に残ったこと
FinOpsは「節約」ではなく「ビジネス価値の最大化」
当初はFinOps=コスト最適化というイメージでしたが、実際には「ビジネス価値を最大化すること」がFinOpsの目標であると強調されていました。ユニットエコノミクスの指標(分子=クラウド支出、分母=事業の活動や出力)を用いて、支出の妥当性を判断します。また、各部門と協力し文化的な転換を促進したり、ニアリアルタイムなデータに基づく意思決定の重要性も述べられていました。
特に印象的だったのは、ステークホルダーへの配慮について具体的に触れられていた点です。共通言語の醸成や、アクセスしやすくタイムリーなレポートの作成、財務部門へのサポート、エンジニア部門へのデータ提供の工夫など、実践的なアプローチが紹介されていました。
クラウド支出の特徴と最適化のアプローチ
クラウド支出は「使用量 × 料金」で決まります。使用量の削減策としては、アイドル状態リソースの終了やライトサイジング、オフピーク時のリソース削減、ストレージ階層の最適化、クラウドネイティブ化、自動化の活用などが挙げられていました。料金の低減策としては、コミットメントベースの割引(Savings Plans、リザーブドインスタンス、確約利用割引など)、ボリュームディスカウント、カスタム料金の交渉、スポットインスタンスの活用などが紹介されています。
AWSのWell Architected Frameworkのコスト最適化の柱とも重なる内容が多く、改めて体系的に整理できました。
FinOps人材に求められるスキル・役割
FinOpsを推進するための人物像や役割についても詳しく記載されていました。具体的には、
- ポリシー管理(ガバナンス、KPI、OKRの整備)
- 技術文書の作成(プロセス文書、標準化支援、アラート通知)
- 分析(コスト異常の深掘り、コストモデルの理解と説明、レポート作成)
- エンジニアリング(アーキテクチャのコスト考慮、請求データ処理の自動化・最適化、予算・予測報告)
- 自動化エンジニアリング(クラウドツールや請求メカニズムの自動化、最適化推奨の自動化)
- データエンジニアリング(未加工データの収集・管理、分析用データへの正規化、データ品質向上)
- 研修(FinOps理解促進のための資料・コース管理)
- エバンジェリズム/マーケティング(FinOpsの価値を組織全体に広める活動)
エンジニアリング力だけでなく、ガバナンスや管理力も重要であり、今の自分のスキルとは異なる成長が必要だと感じました。
最後に
本書を通じてFinOpsについて多角的に学ぶことができました。現在のSI業務や小〜中規模案件ではすぐに実践しづらい部分もありますが、今後のキャリアや学びの指針として大いに参考になりました。将来的にはFinOpsの知見を活かせるよう、引き続き学習を続けていきたいと思います。